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中国の躍動を日本の躍動に

 ここ2~3年、新聞やビジネス書等のマスメディアで中国の経済成長に関する記事を見かけることが非常に多くなりました。中国のGDP総額は来年中には日本を抜くと言われています。また、自動車販売台数もアメリカを抜いて世界一になりました。まさに、「躍動」する中国。その一方で、日本では少子高齢化などが進行し、今後大幅な内需拡大を見込むことが困難な状況にあります。このような状況下で、成長戦略を実現するために中国の急激な経済成長を利用することに疑問を抱く方はいないでしょう。
 しかし、このような魅力的な市場を狙っているのは、もちろん日本企業だけではありません。欧米諸国や韓国企業、更には先進国から技術を吸収して急速に力を増している中国企業など、様々なライバルたちが中国市場に多額の資本を投入し売上・利益の拡大を狙っています。

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中国と日本のGDP推移

 では、この激しい中国市場の競争の中で日本企業は成功を収めているのでしょうか?
おそらく多くの方が「思うように成功できていない」と感じているのではないでしょうか?我々も多くのお客さまと会話をする中でこのような意見を良くお聞きします。今回は、製品開発をご支援する中で感じた、日本企業が中国市場で「躍動」し、成功するためのポイントを3つ紹介いたします。

1.五感をフルに活用

 皆様の会社では、製品企画を承認する経営者の方はどのような情報を元にGO/NO GOの判断をしているでしょうか?また企画案を具現化していく設計者の方々はどのような情報を元に開発をしているのでしょうか?多くの会社ではマーケティング部門や企画部門が作成する企画書(市場予測やVOC情報などが書かれている)を元にGO/NO GOの判断や設計を行っていることと思います。
 しかし、それら紙ベースの情報だけでは、現地のユーザーが喜ぶような製品開発はできないと考えています。なぜなら、製品開発をする上では、文字や写真等から得られる情報以上に、人から伝えてもらうことが難しい暗黙知の情報を、自分の目や肌で感じることが必要になるからです。経営者は現地の状況を肌で感じなければ、企画書だけでは伝え切れない重要な情報を見落として判断をしてしまいます。また設計者は顧客の要求を正しい形で設計仕様に落とすことができません。
 日本人が、日本向けの製品開発をするのであれば紙ベースの情報だけでも大きく的を外すことはありませんでした。なぜなら、皆さんは日本人として日本で暮らし、日本という文化や価値観を日頃の生活の中でライブに感じているからです。一方、中国は、日本とは生活水準や経済の成長率も異なり、そこに住む人の価値観や文化も日本と大きく異なります。その中で経営者が正しい判断を行い、設計者が魅力的な製品を設計するためには、積極的に現地に赴き、自分自身の五感をフル活用して現地の「空気」を感じることが必要不可欠です。

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上海の高級マンション(左上)、上海の下町(右上)、上海近郊の農村(左下)

2.トレンドは創るもの


 中国の変化は非常に速いと言われています。日本に住んでいる多くの中国人の方から、毎年故郷に帰る度にその発展のスピードに驚くという話を聞きます。実際、中国に行くといたる所でビルやマンションが建設されています。特に上海などの大都市では日本でも見られないような超高層ビルが毎年のように新たに建造されています。
 日本のように成熟した社会であれば、年単位で大きな変化が起こることが少ないため、ある程度先を読むことができます。しかし、中国のように急速に発展を遂げている社会では精度良く先を読むことは非常に困難です。
 中国人は右肩上がりの経済環境に置かれているため、新しいものに対する感受性が非常に高いと感じます。この様な中で重要になることは、あえてトレンドを読み過ぎないことです。「トレンドは読むものではなく、自分たちが創るもの」この気持ちで製品を開発することが重要です。
 当然、魅力的な製品を創出するためには、市場調査をして現状を把握し、将来に向けて仮説を立てることが必要になります。しかし、その仮説が本当にそうなるかを神経質なって考えるのではなく、仮説の通りになるように、こちらから仕掛けてしまう。この勇気が非常に大切になります。不確定要素が大きい中国において、予想と異なりそうと錯乱し、データを調べ直し、製品コンセプトから見直して・・・ということを繰り返していては中国の成長スピードに対応した製品開発はできません。

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上海浦東新区の高層ビル群
(この10年間で多くの高層ビルが建造されている)

3.低コスト+αの価値提供

 日本のメーカーは、最先端の技術を惜しみなく新製品に投入し、世界の中でもトップクラスの機能を持つ製品を世の中に送り続けています。欧米諸国の様に生活水準が高い国であれば、日本人と同じ様に最新機能が搭載された高額な製品を購入することができます。しかし、中国市場を牽引しているマス層の人たちは、高額な最先端の日本製品を購入することは困難です。この層の人たちは、日本製品よりも機能や品質の落ちる国内メーカーの製品を購入している場合が殆どです。
 では、我々日本企業も中国企業と同じ様に、機能や品質を削り、安価な製品を販売していけば良いのでしょうか?その答えはNOです。安い人件費で企画から生産までを一貫して手掛け、製品自体の機能も削ぎ落す中国国内企業とコストで真っ向勝負しても到底勝てる見込みはありません。重要なことは、全方位的に機能の高い製品を作るのではなく、引き算する部分は引き算をして、機能を残す部分は残すようなメリハリを付けることです。
 例えばデジタルカメラであれば、CCDの画素数を落としてコストダウンをしても、家族を大切にする中国人のために、笑顔の家族写真を多く撮ることができる笑顔検出機能は残しておくといった工夫が挙げられます。
 全ての機能を引き算してコストを削減するのではなく、中国人の置かれている状況を「五感をフル活用」して考え抜くことで、日本企業にしか提供することができない付加価値を「低コスト+α」の形で消費者に提供していくことが重要です。

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上海の電気街とiPhoneのコピー品
(電気街では平然とコピー品が安価で販売されている)

 この文章を読まれているこの瞬間も、中国は日本に居ては想像できないようなスピードで成長を続けています。そして、世界のトップ企業や中国企業は、この急激な成長スピードに対応してタイムリーな製品やサービスを市場に投入し続けています。
 中国市場で日本が存在感を示し続けるためには、

1.五感をフルに活用
2.トレンドは創るもの
3.低コスト+αの価値提供

 この3つのポイントを「スピード感」を持って実践していくことです。
 内需拡大が困難な日本が、今の閉塞感を打破して「躍動」するためには、中国の「躍動」を利用や活用というレベルではなく、取り込むくらいの勢いが必要です。

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