多事想論articles

「段取り」の重要性

 「段取り八分」という言葉を聞いたことがある人は多いと思う。「段取り」とは昔の宮大工用語で、急な坂道に石段を作る際に1段の高さと段数を決めることを「段をとる」と言ったそうである。それが転じて「仕事を進める上で必要な情報の収集や人員の手配等を円滑に進め、仕事を達成するための見通しを付けること」の意味で広く使われるようになった。「段取り八分」とはその「段取り」の質が仕事の品質の8割を占めるということを指している。つまり、仕事を進める際の準備と計画の重要性を示した言葉である。

 私は開発現場で以下のような光景を目の当たりにしたことがある。
製品設計プロジェクトにて、プロジェクトマネージャーが1人の担当者へ「この製品の設計をよろしく。要求仕様はこの間話した通りだから、とりあえず納期までに図面を出して」という指示を出した。担当者は言われた通り図面作成を開始し、出図納期の一週間前には完成。「自己チェックでも図面に問題は無さそう。修正が入っても納期まであと一週間ある。きっと間に合うだろう」こんな思いを抱きながらレビューに臨んだ。ところが、レビューでは再検討項目が多発。プロジェクトマネージャーからは「あの部品も必要だ。こんな機能も載せよう」と追加の要求仕様が沢山出てくる結果となった。その後、設計者は目の前に迫る納期の中、焦りが前に立ち、検討不十分による再レビュー、再検討のサイクルを繰り返す事になる。結局、納期は未達。人員を投入し、なんとか設計は完了したが、当初計画の二倍の時間を要してしまった。

 上記は段取りの悪さが招いた象徴的な結果である。プロジェクトマネージャーが「どんなものを作るべきか」を明確に伝えていなかったこと、担当者がいきなり図面作成に取り掛かったことが、この結果の原因と考えられる。もし、プロジェクトマネージャーが担当者への指示を出す際、製品の要求仕様をまとめ、どの程度の設計ボリュームがあるのかを見積もっていれば、適切な人員数と納期を設定できたはずである。また担当者も、図面を作成する上で要求仕様を機能仕様に落とし込み、組み込む機能についてプロジェクトマネージャーと合意していれば、設計やり直しにならずに済んだはずである。このように、実際の開発現場では段取りを疎かにしてしまうことでトラブルに繋がる場合が多々ある。

 では、どのようにして段取りをつけるべきなのか。段取りのつけ方は個人ごと、またはプロジェクトごとに様々であると思う。ここでは、私が実践している段取り術をご紹介する。仕事の性質上全ての方にそのまま当てはまるとは限らないが、一例として参考になれば幸いである。まずは達成すべき仕事に対して、それを細分化する。この時注意すべきは、細分化した仕事の大きさである。その大きさは、「具体的なアクションが明確」で、「着手に躊躇しない大きさ」とすること。例えば、会議と会議の間の1~2時間で仕上げられる程度の大きさである。大きすぎると、何から始めれば良いのか分からず、それを考えるだけで時間が過ぎてしまう。逆に細かくしすぎると、段取りの時点で時間がかかって疲弊する上、予定が変わった時に計画を変更しにくい。細分化ができたら、細かく分かれた仕事それぞれに日付を設定する。通常、抱えている仕事は一つだけということは無いため、他にも細分化した仕事を横並びで確認し、優先度の高いものから日付を設定する。自分以外のメンバーに確認してもらうべき仕事については、適宜レビュー日程を決め、そこまでに完了するように日付を決める。あとは毎日、その日に割り振った仕事を確実に終わらせていく。こうして段取りをしっかりつけながら仕事を進めていくことで、準備不足による手戻り等を減らすことができる。

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 以上が仕事の観点での私の段取り実践方法である。しかし、段取りは仕事の場面だけに留まらない。和民の現会長、渡邉美樹氏は「夢に日付を」と述べている。日付を入れた時点で「夢」は実現に向けた「目標」になると言われている。これは人生の段取りをつけることと同じである。
 段取り。これは仕事やプライベート、果ては人生を成功させるために必要不可欠で、且つ最も重要なことだと私は思う。

執筆:石川 浩樹
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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