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3Dプリンターの普及によるものづくりの変化

2013.2.25

 3Dプリンターが低価格化し、コンシューマー向けの商品まで販売されている。本コラムでは、もし3Dプリンターが企業や個人に本格的に普及したら、どれくらいものづくりに変化があるのかを考えてみたい。

※3Dプリンターとは?
3D CADなどで作成した3Dデータを入力すると、その3D形状をプラスチックで出力することができる装置のこと。プラスチックを溶かしながら積層することで3次元形状を再現する。

・3Dプリンターの普及でデザインすることが身近になる

 3Dプリンターは、10年前は1,000万円以上するような高価なものだった。購入できるのは大手メーカーに限られ、そこで働く設計者やデザイナーが試作用に使うのがメインであった。5年前、私が展示会に見に行ったときには、100万円程度のものが出ていた。それが、最近では10万円台で販売されてきており、インターネットで簡単に購入できる。私は、元設計者として「久々に図面を書いて、ものを設計したい」という衝動にかられ、妻を説得し飛び付くように購入した。今では、妻からスマートフォンケースや家具などの注文を受けて作っている。 
 このような個人向け3Dプリンターの普及は、「自分でデザインしたものを形にする」ということを、より身近なものにするだろう。

・3Dプリンターが普及すると、ものづくりを取り巻く環境がどのように変わるのか?

 今後も3Dプリンターの技術が進化したり、企業や個人に普及したりすると、世の中のものづくりを取り巻く環境はどのように変わるのだろうか?今回は私なりに以下の3つを予想してみた。

1.従来の製造方法の制約を受けない形状を作ることができる

 3Dプリンターは、プラスチックなどの材料を溶かしながら積層するため、従来の金型製造の制約を受けなくなる。例えば、金型では絶対に抜けなかったような複雑な形状も成型することができる。最近では、プラスチックだけでなく金属の3Dプリンターも開発されてきている。 
 GEのホームページには、3Dプリンターの研究に関する取り組みが発表されている。これまでのような製造上の制約がなくなると、ものすごく効率的なタービンなどができるのだろうか?

2.物流が大きく変化する

 物流に関しても大きく変化する可能性がある。例えば、販売店に3Dプリンターを置いておき、設計者から3Dデータを転送すれば、物を運ばずに店に製品を届けることができる。販売傾向を店側で判断して、必要な数だけその場で生産することもできる。3Dデータが出来上がってから、製品が店に並ぶまでの時間は、数時間に短縮されるかもしれない。 
 もし、家庭に広く普及すれば、ネットから3Dデータをダウンロードして、家庭で製品を製造するという時代が来るかもしれない。 
 実は、海外で3Dプリンターを販売するメーカーなどは、3Dプリンターを購入したユーザーに対して、フリーで3Dデータをダウンロードできるサイトや簡単に3Dデータを作成できるアプリなどを提供している。すでに、このような変化の兆候は見られている。

3.ものを創造する教育が身近になる

 ものづくりに関する教育も大きく変わるかもしれない。これまでだと自分でデザインしたものを作るという教育は、紙やダンボールや木での工作がメインだった。3Dプリンターを使えば、形の自由度も高くなるため、様々なものをデザインすることができる。 
 ちなみに、オバマ政権は次世代製造業を生み出すための施策の一環として、今後4年間でアメリカの学校1,000校に3Dプリンターを始めとするデジタル工作機器の設置を決定したらしい。日本も将来の製造業を生み出すために、乗り遅れたくないと感じる。

 以上が、私の予想である。ITIDのコンサルタントとして、このようなテクノロジーの変化にも着目しながら、新たなビジネスモデルの可能性や開発力向上の方策を考え、日本の製造業からイノベーションを起こしたい。

執筆 那須隆志
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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