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尊敬の気持ちを人間関係の潤滑油に

 さっそくですが、みなさんが"尊敬"する人を思い浮かべてみてください。会社や家族、趣味、学生時代など、さまざまな場面で尊敬できる人に出会っていると思います。私は、両親、大学の研究室時代の指導教官と先輩同期、部活の人、上司、茶道の先生が浮かびました。特に指導教官は学生の個性を活かすように指導するところがすばらしく、私も自分の興味の活かし方を身につけることができ、さらに研究の面白さを学ぶこともできました。そのような思い出も目に浮かびます。みなさんも尊敬する人を思い浮かべましたか? 

 さて、思い浮かべた人たちはどのような立場の人ですか?年上ですか、年下ですか?男性ですか、女性ですか?上司ですか、部下ですか? 

 "尊敬"という言葉を辞書で引くと、『その人の人格を尊いものと認めて敬うこと。その人の行為・業績などをすぐれたものと認めて、その人を敬うこと』とあります。字のごとく、相手を"尊"いと認めて"敬"う気持ちや行為が、尊敬です。さきほど思い浮かべたとき、何を根拠に尊敬していましたか?年齢や性別、社内での立場、学歴、経歴などその人の持つ肩書きではなく、しっかり相手の人格、行為や仕事を見ていましたか? 

 「しっかり相手の人格を見て」といいつつも、会社や組織の中では必ず立場が付いて回ります。「さん呼び」などの方法だけでは、立場の殻を越えにくいものです。しかしながら、例えばコンビニで、喫煙所で、居酒屋で、電車内で、相手がふと立場の殻を捨て、素を出すときがあると思います。待ち時間に旅先での思い出を楽しそうに語る姿を見て親近感を覚えるかもしれません。さりげなく携帯電話に付いているゆるキャラストラップのことを聞いてみたら、地元愛の強さを知るかもしれません。誰しも素敵な素の一面を持っています。そこを見つける事ができれば、相手の人格に対して尊敬の念を抱くきっかけになると思います。

 その人のすぐれた行為や仕事を見るときの心がけについても触れておきたいと思います。例えばあなたはエース級の設計者とします。そんなあなたに対して、設計の素人が「3DCADを使えるなんて尊敬します!」と発言したら、どのように思うでしょうか。素直に喜べるでしょうか。あなた自身の本当のすごさを見ずに出された言葉は心に響きそうですか?『自分が出来ないことをあなたが出来ているから』ではなく、あなただから生み出せた発想や技術、成果物などを『すぐれたものと認められ』て尊敬されたいと思いませんか?ちゃんとあなたのことを見て出た言葉でないとうれしくないと思います。人のすばらしい行為・仕事を見るときには「その人だから出来たこと」「その人ならではのこと」に着目してみてください。

 場合によっては、苦手だと思う人と出会うこともあるでしょう。どうしても相性が合わない人もいると思います。ましてや、そのような人と一緒に仕事をしなくてはならないこともあるものです。そのような人と対峙するとき、相手の立場を理由に尊敬しなくてはと思い込んでしまっていませんか?自分の素直な思いを歪めると、ストレスが溜まってしまい、尊敬という潤滑油が機能せず悪影響を及ぼす恐れがあります。立場がどうだからではなく、相手の素の人格や、その人ならではの技術、発想や仕事を見るようにしてみてください。潤滑油は無理に注がず注ぎすぎず、自分の心にも良い効果が出るようにうまく調整してください。

 人格、行為、仕事を見て尊敬の念を抱くことの出来る人は、相手から信頼を得ることができます。なぜなら、尊敬された相手も、「自分の何を見て尊敬しているのか」が分かり、素の自分を見てくれているという安心感を持つことができるからです。良い信頼関係を築くことができているときは、尊敬の念が潤滑油として機能を発揮しているときです。

 尊敬の気持ちを潤滑油に、人間関係の歯車をスムーズに回していきましょう。

執筆:宮本 佐和子
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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