多事想論articles

模倣と創意工夫

 皆様は、部下や同僚に仕事をお願いするときに、その人の仕事のスタイルを意識したことはありますか。また、そのスタイルに応じてお願いする仕事の内容やお願いの仕方を工夫していますか。本日は、私が講師として参加した子供向けのものづくりセミナーの例をヒントに考えてみたいと思います。

 『紙で塔を作って、誰が一番高く積めるかを競争します。紙は10枚まで。作り方は自由です』

 あるセッションで、このようなお題が出るのですが、私が観察したところ、子供たちの進め方と成果物の関係は、大きく以下の4つのスタイルに分かれているように思えました。

 比率でいうと、[1]が20%、[2]が50%、[3]が20%、[4]が10%程度です。[1]と[2]は小学校1~2年生でようやく自分で工作できるレベルの子が多く、[3]は小学校3~4年生で自分達である程度の創意工夫できるレベルの子たち、[4]は学年に関わらずという印象です。「自分の子はこのスタイルだな」と思った方はいらっしゃるでしょうか。ちなみに、私の子は[1]か[4]だと思います(まだ3歳ですが)。

 この内容を普段の仕事に当てはめてみるとどうでしょうか。子供たちのスタイルを部下や同僚の仕事のスタイル、塔の高さや形を仕事の成果に当てはめて考えてみると、どのスタイルの人にどのような仕事をお願いすべきでしょうか。

 [1]の人は、仕事をお願いしても途方にくれるか、何もしない人になります。社会人では、なかなかいないと思いますが、このような人には仕事は任せられないので、早めに[2]へ移動できるような環境を作る必要がありそうです。
 [2]の人は、あなたが指示した進め方や周りのメンバーの進め方と同じように仕事を進めてくれそうですが、良くも悪くも想定通りの成果になりそうです。組織として、そんなに成果の高さが求められないようなルーチンワークには向いているかもしれません。ただし、いつまでも[2]にいてもらっては困るので、[3]へ成長してもらう必要があります。
 [3]の人は、ゴールさえすり合わせておけば、進め方は自分で工夫してくれそうです。その結果、あなたの想定以上の成果を出してくれる可能性もあります。組織として、成果の高さが業績と直結するような業務を任せたいものです。[3]の人は、これ以上の成長は必要ないように思えますが、自分が1番になりそうなときなど、周りに参考情報がなくなってきた場合には、[4]へ成長してもらう必要がありそうです。
 [4]の人は、上記のように[3]を経て[4]へ成長した人は良いのですが、その過程を経ずに、いきなり[4]の進め方をする人は、有効な進め方があるのに知らないという可能性があるので、それを教えて[2]や[3]へ移動してもらう必要がありそうです。私は、子供向けのセミナーで[4]の領域から高い塔が出なかったのは、[3]を経て[4]へ来た人がいなかったためだと考えています。同じ[4]の領域でも、いきなり[4]を始める人と、[3]を経て周りに学ぶものがないと決断した上で[4]へ成長した人とでは大きな差があると思います。

 では、上記で述べたように、上司の立場として、部下に[1]→[2]→[3]→[4]の各領域を移動して成長してもらうためには、どのように接すれば良いでしょうか。

 誰しも未知の仕事を与えられたときには、最初は[1]の領域だと思いますが、多くの場合は自然に[2]へ移動すると思います。しかし、それができず[1]に留まり続ける人に対しては、期待している成果も出せていないことを厳しく伝える必要があります。その上で、基本の型を教えたり、参考になる進め方を情報提供したりするなどの『指導』が必要になるかと思います。
 [2]から[3]へ移動してもらうためには、より高い成果を出すことに動機付けをしたうえで、仕事の進め方に対して創意工夫をしてもらう必要があります。創意工夫と言われると人の素養にも感じ、それを高めるのは難しそうに思います。皆様は、創意工夫ができる人と言われると、どういう人を思い浮かべるでしょうか。私は、世の中の様々なことに疑問や問いを持ち、それに対して仮説を立てて検証できる人だと思います。また、その検証を通じて学びを得ていく人だと思います。そのような状況を引き出すために、マネージャーとして、自らの仕事の進め方に疑問を持つきっかけを与える『質問』をしたうえで、自分なりの創意工夫を検証する勇気を与えるべきだと思います。例えば、子供向けのセミナーでは、[3]の領域の親は子供に対して「どうして壊れちゃったのかな?」「どうすれば丈夫になるかな?」などを問いかけて、子供がまた積み始めると「次はきっとうまくいくよ!」「どんどん試してみなよ!」などと勇気づけていました。
 そして、[3]の人に[4]へ移動してもらうためには、縦軸を下に移動する必要がありますが、これが少し厄介です。なぜならば、人は参考になる情報源を知ってしまうと、次にわからないことがあった場合に、その情報源に頼ってしまいがちだからです。子供たちの例で言うと、周りの子を見れば高く積めるヒントがあることを知ってしまい、また周りに情報を求めてしまうような心理的現象です。周りに有効な情報がある場合は、このやり方が正しいのですが、自分が一番になっているときや前例のないような仕事に取り組む場合には、逆効果になります。このような状況から脱するには、情報を強制的に『隔離』するのが有効な手だと思います。そうすれば、参考にするものもなくなり、自分で考えざるを得なくなります。過去に、あるメーカーさんで「若手のエースクラスに新しいものを考えさせるために、ネットワークを切って過去のCADデータを参照できないようにした」という話を聞いたことがあるのですが、これはまさに情報の隔離により、[3]の人たちを[4]へ成長させた例ではないかと思います。

 ちょっとした子供たちの行動観察からの気づきでしたが、子供の素直な行動だからこそ、人間の本質を表しているような気もしました。皆様のご参考になれば幸いです。

執筆:那須 隆志
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

資料ダウンロードはこちら