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野菜作りとノウハウの獲得

 趣味で野菜を作り始めて今年で4年目となります。3年も経験すれば上達すると思っていましたが、残念ながら良く出来たり出来なかったりと安定していません。前の年は収穫できた作柄が今年は全滅だったりします。失敗の原因は必要な生育条件を満たしてあげられなかった事に尽きます。野菜を作り始めて気付いたことですが、毎年天候が結構変わります。天候の変化に対応出来ないと安定的に育てることが出来ないのだと痛感しました。
 聞くところによればプロの農家でも天候には振り回されるそうです。天候への対応は永遠の課題でもあるということです。それでも災害でもない限りは長年の経験から一定の収穫を上げている、これは熟練の技だといえます。ただし、そのノウハウを言葉に表すことは難しく、後継者育成の障害になっていると聞きます。

 農業の分野でも、より安定的な収穫を確保するために、IoTなど先進のIT技術導入の実証実験が盛んに行われています。野菜の生育状況、農地の状態、そして農作業の結果を計測し、天候の予測情報を基に適切な作業指示が得られる仕組みの構築を期待したいと思います。
 ただし野菜の生育メカニズムは複雑です。日照時間や気温、降水量や土壌のPh値はIT技術でリアルタイムに計測可能でしょう。天気予報の精度もIT技術により高まりました。しかしながら、その情報から今何をやるべきかの答えは自動的には得られません。得るためにはプロの農家のノウハウをロジックとしてシステムに組み込むことが必要です。
 野菜作りのノウハウとは、天候や野菜の育成状況に応じて、作業内容や実施のタイミングを決める判断基準です。適切な判断を行うために必要な情報は、実施した作業と生育条件および収穫結果の因果関係です。この無数に存在する作業と生育条件の組み合わせと収穫の結果をどれだけ経験し実績情報として蓄積できるか、そして蓄積した因果関係をひも解き、次の野菜作りへの反映が出来るか、これがプロの農家に近づく道だと考えます。

 野菜作りに限らず、仕事や趣味に於いてもノウハウの獲得は誰もが望むところです。しかしながら、経験さえ積めば誰もがノウハウのある人になれるわけではありません。ノウハウを獲得するには経験を活かしていく必要があると思います。例えば野菜作りでは、毎年教科書通りに漫然と作業するのではなく、上手くいかなかった経験から対策を考え、実践していくことです。この行動の繰り返しがノウハウの獲得につながっていくのだと思います。
 皆様の日々の業務の中でも、改善を目的に振り返りを行い、良かったこと・悪かったこと・改善すべきことを検討していると思います。その際、有効な対策を導くために重要なことは、野菜作りと同じく実施作業と作業条件およびその結果の因果関係を把握することです。この振り返りの経験を意識的に次の機会に活かし、様々な状況への対応力を磨くこと、この繰り返しがノウハウをためる有効な手段となるはずです。
 最後に、筆者は仲間との野菜作りの実績情報の共有にチャレンジしています。今後は仲間をもっと集って情報量を増やして行きたいと考えています。そして実績情報を活用するノウハウを自分なりに貯めていくつもりです。

執筆:荒川 英俊
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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