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フィードバックを得るコツ

 作成した資料の不備を上司に注意されたので、言われたように修正した。後輩がミスをして怒られていたが、よくある失敗だし皆通る道だと思い黙って見ていた。...皆さんの毎日の仕事でもよく有るシーンではないでしょうか。
 このようなシーンはよく有るため、特に何も意識することなく過ごしてしまいがちです。しかし振り返って考えてみると、上司や先輩など、自分とは違う立ち位置の人からフィードバックや指摘をもらったり、さらには自分に向けられたものではなく身近な人がもらっているフィードバックをも取り入れれば、自分ではもともと持っていなかった観点や評価基準を学ぶことができるため、自分自身を成長させる絶好のチャンスとも捉えることができます。

 フロリダ州立大学のアンダース・エリクソン氏の「1万時間の法則」では、スキル取得のために必要な時間は1万時間であると主張しており、様々な場面で取り上げられてきました。「1万時間」の真偽は別にしても、スキル習得には多かれ少なかれ時間がかかるということには同意できます。
 しかし、ただ時間をかけてこなすように漫然と繰り返せばよいわけではなく、高い理想を設定し、現状との差を見極め、修正する方法を考案し、そのとおりに実行し・・・のように時間を過ごさなければ、高いレベルのスキル習得は見込めないでしょう。プロスポーツ選手はこのためにコーチを付けますし、音楽家も師と仰ぐ人を持ちます。私は、ビジネスの世界も例外ではなく、周囲から上手にフィードバックを得ることが、効果的な成長のために必要だと考えます。

 一方、「周囲からのフィードバックを自分の成長に活かすべきだ」と言葉ではわかっていても、実際は行動に移せないこともあります。例えば、顧客へのプレゼンに同行した上司から「今日のプレゼンは話し方がイマイチだった」と言われたとします。「話し方に関して良いフィードバックが貰えそうだ」と捉え上司からのアドバイスを受け入れられるとよいのですが、「プレゼンが下手だと否定された」と落ち込んだり、または「納得できない」と反発してしまうこともあるのではないでしょうか。また、自分と同じプロジェクトのメンバーが指摘を受けていても、「あ、怒られている」と思う程度で内容は聞き流してしまうこともあるでしょう。

 それでは、上記のような場面で周囲から上手くフィードバックを得て自分の成長に繋げるにはどうすればよいのでしょうか。ここでは私が意識している工夫を紹介します。

1.感情は一度認識してから脇に置く ⇒自分へのフィードバックを冷静に受け止める
 自分へのフィードバックに対し、感情が邪魔をして素直に受け止められないことはないでしょうか。理不尽な言われ方をしたとき、どう考えても相手の言っていることが違うとき、つい反射的に防御反応してしまいます。
 そのようなときは、自分が感じている感情を否定せず、一度認識してから「脇に置く」ことを意識すると、フィードバック内容を冷静に捉えられるようになります。感情を抑え込むでもなく忘れるでもなく、一度脇に置くイメージです。周囲からのフィードバックがあった際、「感情」と「内容」の枠を準備し、それぞれを格納していくことで感情とフィードバック内容を切り分け、そして感情は一度脇に置きます。私自身も頭の中に明確に「感情」と「内容」の箱を用意し、そこに中身を入れていくイメージで整理していましたが、慣れるとすぐに切り分けができるようになると思います。初めは敢えてノートなどに書き出してもよいと思います。こうするとフィードバック内容を冷静に認識できるため、意外にも自分が持っていない視点や考え方に気付かされることあります。
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2.他者へのフィードバックも自分事化する ⇒フィードバックの量を増やす
 自分の仕事や行動に対するフィードバックだけでなく、自分が直接関わっていない事柄の結果や、周りの人に対するフィードバックからも多くの学びが得られます。「自分だったらどうしていたか、自分だったら次に何をするか」と、自分が経験する可能性のある場面を先に脳内で擬似的に経験しておくのです。
 活用できる場面は日々たくさんありますが、私が特に学びが大きいと思うのは自分よりも2~3年程度年次が上であったり、職位が1~2階層上の方が受けているフィードバックです。立場や職位が違いすぎると、内容を自分ごとに落としこむことが難しいのですが、少し上の方へのフィードバックは内容も理解しやすく、自分ごととして捉えやすく感じます。
 自分であればどのような資料を作ったか、どうやって関連部門とすり合わせをしたか、結果はどうなりそうか、どのようなフィードバックを受けそうかなどを考えます。実際にフィードバックを受けている方の経緯と自分の考えを比較し、必要であれば自分の考えを修正していくことができます。そのためには、自分がその立場だったら作成するであろう資料の内容や、次に起こす行動をなるべく具体的にイメージするのがポイントです。

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 以上2つのコツを実行すると、フィードバックのし甲斐があると感じてもらえ、親切で質の高いフィードバックをしてもらえるという副次的なメリットも生みます。質の高いフィードバックを得るために、そしてそのフィードバックの機会を自分の成長に繋げながら、日々自己研鑽に励もうと思います。

樋口 咲恵
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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