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宇宙で使われる機器の開発

宇宙ビジネス関連の記事を目にする機会が増えています。かつては国が主導していた宇宙開発が現在は民間主導で行われるようになり、市場規模は2040年に現在の約3倍に相当する100兆円を超えるとの予測もあります。市場の幅も広がりを見せ、ロケットや人工衛星だけでなく、宇宙ホテルでの滞在や月面での居住に向けた装置の開発も進められています。これらのうち、ロケットや人工衛星は最初から宇宙に送り込む目的で開発される一方、人が宇宙で暮らす際に必要となる水や電気の供給システムなどでは、地球上で使用される装置を後から宇宙向けに仕立て直すことがあります。

しかし、地球と宇宙、たとえば月面とを比較すると、装置が使用される環境は大きく異なります。一番の違いは大気がないことでしょう。大気がないと温度が安定的に保たれないため、月の赤道付近では昼は100℃以上、夜はマイナス150℃以下と温度差が大きくなります(そして昼と夜がそれぞれ14日間ずつ続きます)。大気の保護がないため多量の放射線に直接さらされ、隕石は燃え尽きることも速度を落とすこともなく秒速5㎞以上で月面に衝突します(ちなみにライフル銃の弾丸は秒速1km)。

このように過酷で、しかも小さな事故が甚大な被害を及ぼしかねない環境下で使われる宇宙向け製品には、きわめて高い安全性や信頼性が求められます。そのため、JAXAやNASAなど各国・地域の航空宇宙当局は安全性・信頼性に関する様々な要求を文書で発行し、それらに適合した製品開発が行われることを求めています。しかし、これまで地球上で使用する製品しか開発してこなかった企業にとっては、どの要求にどこまで応えれば良いのか判断がつかず、開発計画さえ立てられないといった状況も起こりえます。

弊社ITIDおよびISIDグループは、航空宇宙領域で求められる安全性・信頼性に関する知見を活かして、そのような企業の開発計画策定や文書作成のご支援をしています。私が担当したお客様も、最初はどこから手を付ければ良いか分からず、開発計画を立てることができませんでした。そこで、私たちはご支援活動を通じてJAXAやNASAなどの要求文書を調査し、必要な対応事項をまとめ、それらの対応に伴い発生する工数を見積もって開発計画の草案を策定しました。その結果、当初想定していたよりも200人月以上多くの工数が必要で、かつ安全性・信頼性に関する専門組織を設置しなければならないことが分かりました。現在は、これらの課題に対応すべく計画の具体化を進めています。

この事例を通じて、月面で使われるかもしれない製品の開発をご支援する貴重な機会をいただきました。それ以来、夜空の月を見上げるたびに、いつかあの場所でその製品が活躍するのだなあと感慨深く思っています。

シニアマネージャー 水上博之

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