多事想論articles

空想と設計開発

いよいよ8月も中ごろに差し掛かり、夏も真っ盛りというところですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
子供のころは、夏休みといえば麦わら帽子をかぶり入道雲を見上げながら蝉取りをしていた印象ですが、大人になった今では、豪雨で交通が止まらないかと空模様を憂いるようになってしまったなと寂しさを感じています。

さて、そんな"空を想う"、"空想"が当てられている言葉をご存じでしょうか。
"すこしふしぎ"などともいわれている空想科学(SF)です。

ここ数年のコロナ流行に伴うソーシャルディスタンスの生き方の中でロボットの社会実装も急激にすすみ、ドローンも含めた輸送系や接客系、製造現場での協働ロボットも目にする機会が出てきました。
また、ChatGPT が子供の夏休みの宿題で使われるニュースなども流れるようになり、一昔前はSFのメインテーマだったロボットや人工知能がいよいよ日常生活にもかかわってくるようになった実感があります。

日本でも鉄腕アトムやドラえもん、ガンダムなどに影響を受けた技術者が現在のロボット産業を支えているとも言われていますが、世界的にもSFに影響を受けた著名人は多いといわれており、夢を紡ぐ物語の価値を感じます。

ここでSFの価値とはなにかと考えると、まず思い浮かぶのがアイディアかと思います。
ロボットと人工知能に関してはアイザック・アシモフの"ロボット三原則"が有名で、SFを読まない方も一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

第一原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」
第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」
第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」

一方で、アシモフはSFの本質はアイディアではないと言います。
「SFの本質とは舞台装置であるアイディアではなく、舞台装置が社会にどのような影響を及ぼすのか、それによって人の生活はどのように変わるのかを示すものだ」
というものです。(今回の記事執筆にあたり引用元を探したのですが見つかりませんでしたので不正確ですが...)
アシモフは"ロボット三原則"を舞台装置とした小説を数多く出していますが、そのひとつにコロナ流行下で話題となった「はだかの太陽」があります。
ロボット技術が十分に発達し、また、ネットワークによるコミュニケーション(作中では3D画像による)が充実した結果、引きこもって生活をすることの楽さに浸りきり進歩がなくなった社会の姿、その中で人間の本当の幸せのためにロボットは何ができるのかが描かれている点が、1957年に刊行されて以来、66年たった今でも記憶に残る理由ではないでしょうか。

SFに対して空想科学という言葉を割り当てた経緯はわからないのですが、
「現実にはあり得るはずのないこと」によって起こりうる社会の変化について「いろいろと思いをめぐらす」と考えると、上手い訳だなと感じずにはいられません。

さて、このようなSFですが、製品開発にも同じような考え方が取り入れられてきています。
どうしても製品開発では開発対象となる製品やそこで使われる新技術に注目してしまいがちですが、一歩引いて、その製品・技術が社会にどのようにかかわるのか、どのように変えていくのかを考えるというものです。

最近ではさらに進めて、ありたい未来の姿を定義して、逆算的に実現するべきテクノロジーを考える"SFプロトタイピング"も提唱されてきており、今後の製品開発がより楽しくなるのではないかと期待しています。

大人になって忙しい生活の中でも、一息ついて、空を想う時間を大事にしたいですね

シニアマネージャー 小形 研哉

資料ダウンロードはこちら