多事想論articles

「こだわり」の意味と使い方

しばらく前に見たテレビ番組で、あるレポーターが農家を取材していた。その農家では、非常に丁寧に野菜を育ており、一つ一つの工程を考え抜いて実行していた。レポーターはその様子を見て「とてもこだわっていらっしゃる」と表現した。これに対して、農家は「こだわりではない、必要不可欠なことだからやっている」と返した。レポーターは「とてもこだわっていることが分かりました」と再び同じ表現を使って会話を締めくくった。農家は「こだわっている」と言われたことに違和感があったようだが、なぜか?

まず、辞書で「こだわり・こだわる」の意味を確認してみたい。

こだわ・る【▽拘る】コダハル〘自五〙
[類語分類]心の動き/こだわる

  • ① つまらないことに心がとらわれて、そのことに必要以上に気をつかう。拘泥(こうでい)する。「小事[形式・体面]に─」「彼は物事に─・らない人だ」 マイナスに評価していう。
  • ② 〔新しい言い方で〕細かなことにまで気をつかって味覚などの価値を追求する。「微妙な苦みに─・って作りました」「徹底的に鮮度に─・って吟味する」 プラスに評価していう。
  • ③ 〔古い言い方で〕物事がすなおに運ばないで、途中でつかえたりひっかかったりする。「(ドウシテコノ挨拶ガ)それ程─・らずに、するすると私の咽喉を滑り越したものだろうか〈漱石〉」 こだわり

明鏡国語辞典 (C) Taishukan, 2002-2008

レポーターは、農家の妥協なく取り組む様子に感心し、②を意味して「こだわっている」と表したのだろう。だが、果たしてそのように伝わっていたか、農家の様子から少々疑問が残る。すぐに反論したところを見ると、①の意味として受け取ったのかもしれない。では、②として伝わっていたなら違和感を持たなかったか?農家にしてみれば、出荷に値する品質を確保するために「当たり前」に取り組んでいることであって、「価値の追求」ではない。やはりレポーターに正しく理解されたとは思えなかっただろう。

「こだわる・こだわり」にはプラスとマイナスの両方の意味があり、なかなか使いこなしが難しい言葉だ。また、たとえプラスの意味で用いても、正しい説明につながらなければ、行き違いの元になる。どの言葉もそうだろう。レポートの風景から、そんなことに気付かされた。

シニアコンサルタント 花井 紀子

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