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家の節電どこまでやりますか

 7月1日、電気事業法に基づく電気使用制限令が37年ぶりに発動されました。37年前といえば、三種の神器の中でも普及が一番遅かったエアコンがまだ創生期であった時代です。あらゆるものが電化されている現在、節電するネタは多岐に渡る一方、快適な環境を変えることが社会に及ぼす影響は今回の電気使用制限令の方が大きいはずです。もし制限令への対応がうまくいかず、大規模停電が発生した場合の被害対象は何十万世帯、何百万人に及ぶ可能性があります。

 このような状況にもかかわらず、経済産業省のホームページには記載があるものの、一般家庭に対しては節電ガイドラインもクリアでありません。趣旨があまり正しく伝わっていないまま、自助努力による15%節電という目標だけを掲げているのは、やや甘いのではないかと考えます。そのせいか、マスコミの報道を見聞きする限り、春先に計画停電が実施されなかった地域に住んでいる方は、今回の制限令についてあまり切実に心配していない傾向にあるようです。これは、大口事業者がやってくれれば、自分はやらなくても問題ないだろうと、未体験の問題が発生する確率を実際より低く見積もってしまっている状況と言えます。

 逆に、実際に経験したりごく身近に発生したりした問題に関しては、発生確率がどれだけ低かろうが発生した問題の大きさだけに着目し、過剰なリスク管理に走りがちです。この傾向は、高品質を誇りそれをベースに成長してきた日本企業が、再発防止という観点での取り組みを強固に行うことと因果関係があるかもしれません。ただし、過剰すぎるのは問題です。実際に製品開発の現場では、過去の不具合情報を集めたチェックリストが莫大になってしまい、そのチェックに時間を取られて本質的な検証がおろそかになってしまうという本末転倒な現象が生じています。

 さて節電の話に戻りますが、今回の節電は、午後1時から4時ごろのピーク時の電力消費を10~15%抑えればよいのです。したがって、例えば朝の出勤前に洗った髪を乾かすためにドライヤーを使うのをやめるということは、その家庭にとっての電気代節約にはなりますが、電気供給リスク管理に対する貢献にはなりません。電気を使うタイミングをずらせるものはずらせばよいのですが、日中在宅していない人はその時間帯だけ節電対応することは困難です。その人々も含めて節電機運を高めるために、常に15%節電と定義しているだけなのです。

 今回の節電を軽く見ている人も過剰にとらえすぎている人もいるでしょう。どちらの人にも認識してほしいのは、人間は経験したことがある事象には過剰になりがちで、未経験の事象は軽んじる傾向にあるということです。私たちはそういう思考・行動癖があるということを改めて念頭に置き、節電に限らず何事もバランスを持って取り組む必要があるのです。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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