多事想論articles

見直されての流行

 最近の流行を改めて見てみると、iPhoneのように最初からばか売れのもの、口コミが発端となってじわじわと人気が上ってロングセラーとなっているものなど色々ある中、ちょっと変わったパターンのものがありましたのでご紹介します。

 まず、ハイボールです。最近の居酒屋では、ほとんどの店のドリンクメニューにハイボールが載っています。ウィスキーを炭酸水で割り、ボトルをモチーフにしたジョッキで飲むスタイルは、再度、居酒屋メニューの定番となりました。ウィスキーの市場自体は居酒屋でウィスキーのボトルをキープするのが当たり前だった1983年のピーク時から、チューハイ、カクテルなどに役を奪われ続け、25年間で1/4以下に減少し、低迷時期が長く続きました。

 もうひとつ、最近若者の間で人気を博しているのがチェキです。今年度はグローバルで300万台の売上げが見込まれているチェキは、富士フイルム(当時:富士写真フイルム)が1998年に発売したフィルムを使ったインスタントカメラです。気軽さが市場で受け、当時流行のプリクラユーザーを取り込み、ピーク時には100万台を越える売上げとなりました。しかし、コンパクトデジカメ、さらにはカメラ付き携帯の普及により、市場は縮小し、2005年には10万台程と約1/10になってしまいました。

 この様な極度の低迷を抜け出して、ハイボールとチェキは復活を遂げました。服のファッションのトレンド循環以外では、あまり例を見ない復活です。いか復活を遂げたのかを考えてみると、決して忘れてはいけない姿勢が浮かび上がります。先ずハイボールですが、サントリーがウィスキーにつくられた既成概念を払拭し、食事と一緒に飲む全く新しい飲み方、飲む場所を提案し、それを続けて来た粘り強いマーケティングが功を奏したといわれています。それに対して、チェキは、代替品が小型のデジカメと明確でしたので、一度離れた当時のユーザーにまた買ってもらうというのは困難でした。そんな時、デジカメにはない、その場でプリントされた唯一無二の写真の有り難さというものを、デジカメ世代の若者が感じてくれたことが復活に繋がります。海外では、ドラマの小道具として使われ、おしゃれなグッズとして認知されたことも転機となりました。

 この様に、地道なマーケティングをベースに仕掛けていき、身近さを売りにして昔の顧客も含めて取り戻したハイボールと、マーケティングではもはやどうしようもない状況から、世界で1枚だけの写真という希少性により新しい顧客を獲得できたチェキは、ぱっと見共通点ほとんどありません。しかし実は、価値を問い直して、新しく意味づけされた価値を再度市場に提供したということが同じなのです。最初に打ち出していた価値の有り難味が薄れてきたときに、新しい体験をしてもらえるような価値を作り出したり、価値を訴求する相手を変えてみたりすることで、商品自体が息を吹き返したわけです。

 代替品にあらゆる面で陵駕されてしまうと、復活することはもはや無く生涯を終えることは世の常です。実際にこれまでも、幾多の商品が生まれては消えていきました。しかし、海外発の流行りをキャッチアップするのに躍起になるだけではなく、時には、自分が精魂こめて開発したり、愛着を持って使っていたりする商品、サービスの存在意義を問い直してみることが必要なのではないでしょうか。そして、新しく、または改めて価値を伝えていくことが求められるのではないでしょうか。それが見出せればイノベーションに繋がります。日本には有形、無形、そういうものが沢山存在しているはずですので。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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