多事想論articles

平昌オリンピックを前に

 今年の冬は、来年の平昌オリンピックのプレシーズン。日本選手の活躍もあり、ウィンタースポーツの話題が豊富でした。その中でも一際目を引いたのは、スピードスケートの小平奈緒選手のW杯8戦全勝を含む出場したレースすべてでの優勝でした。毎年国際大会で上位入賞を果たしていたとはいえ、ギヤが入れ替わり、一躍世界の圧倒的トップに躍り出たという印象で、まさに流れに乗った活躍でした。

 流れに乗ると言うのは、たまたま勢いで良い結果を出している時にも使われることがありますが、この表現が本当に相応しいのは、以前から人一倍真剣に取り組み、何かをきっかけに飛躍できた人に対してであると考えます。小平選手に関して言えば、2度のオリンピック経験(それだけでも十分すごい)の後、2年間スピードスケート王国のオランダに留学し、そこでトレーニングを積んでいました。一流の環境に身をおいたことで、試合に対しての集中力の高め方や直進を加速するスケーティング技術を習得したことに加え、帰国後、「気づいたことは、日本人の自分が世界で戦うために必要なことを見極められたこと。」と語っているように、技術のみならず、一流選手としての視野、視点を身につけたようです。さらに、オランダの生活が体に合わずに留学2年目のシーズンに苦しんだことによって、自分に合った食生活の大切さを痛感したそうです。新たなプラスの要素の取り込みと、取り込むために犠牲にしなければならなかったもののリカバリーや本質に対しての気づきが噛みあって、初めて流れに乗ることが出来るのだと感じた次第です。流れに乗るというよりも、流れを自ら作り出すという表現の方が適切かもしれません。

 小平選手と同じように最先端の環境に身をおいたり、流行の取組みを取り入れたりということは、今の時代、やろうと思えばそこそこやれてしまいます。そこで自らを磨くというよりも、むしろ単に流行に後れを取るまいと躍起になっている人や企業を数多く見かけます。シリコンバレーに社員を派遣している日本の会社も多いと思いますが、乗り遅れまいとするのみではなく、そこで得たものに自分たちの強みをあわせて独自の価値を創出することを目的にして欲しいと思います。そうでなければ、流れに乗っているように見えるだけで、実はこれからどうなるのかも分からず、流されているだけではないでしょうか。そうなると流れが緩まった時には、自分の居場所を見失うことになるかもしれません。スポーツでもビジネスでも、日本が世界で戦っていくには、真似ることを目的とした活動ではなく、己を知り、一流を知り、自らを磨くことで流れを作り出して、それに乗る必要があります。

 最先端、一流を知ることはとても大切なことであることは間違いありません。しかし、それだけに追従し、真似をするだけでは何をやっても短命に終るでしょう。そこから得られるものは何なのか、どう自分に生かすのかを地に足をつけて考え抜いて、自分の弱みの強化や、自分の強みとの融和を図り、新たなる一歩につなげて欲しいと思います。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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