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配偶者居住権

 高齢化が進む日本において、配偶者の死亡時に、その配偶者所有の家に住んでいた生存配偶者(残された配偶者)が、続けて居住することを認める配偶者居住権が、相続税制の改正にて創設されました。家は他の親族(残された配偶者ではない子供など)が相続しますが、残された配偶者がそのまま住み続けられることが正式に認められたことは、伴侶を亡くした方にとってはありがたい改正だと思った次第です。

 しかしながら、ここで、一つ疑問が湧いてきました。家は住み続けると(住んでなくても)当然劣化もしますし、場合によっては大規模な修繕や、改築をしたくなることがあるはずです。その場合、誰が費用を払うのかという疑問です。少し調べてみたところ、生活レベルの維持に必要な経費は残された配偶者が負担し、改築などをする場合には相続者が負担するとのことでした。これは相続時点の住居の状態を原点(ゼロ)とするとゼロがマイナスになった場合の補修やゼロを保つための維持の費用負担者と、ゼロからプラスにする様な資産価値を上げるための費用負担者が違うということを意味します。マイナスを定常レベルまで持っていくアプローチと定常レベルからさらにプラスに持っていくアプローチは異なるということです。

 この考え方は、先日、テニスの全米オープン、全豪オープンに優勝した大坂なおみ選手と、2017年12月から約1年の間付き添ってくれたサーシャ・バインコーチとの契約にも当てはまります。大坂選手が特にメンタル面の弱さを克服するためにマイナスからゼロ(ここでは敢えてマイナスと記述します)のステージで、「君はそれでいい。」とそっと後ろから支えてくれるようなバインコーチが無くてはならない存在だったことは疑いの余地はありません。大きな成果を達成したことで、指導の引き出しが豊富だと言われるバインコーチの役割が本当に終了してしまったのかどうかは分かりかねますが、大坂選手は更にプラスを大きくするステージへと向かおうとして、ギアを入れ変える意味で契約解消としたのでしょう。

誰しも人はフィジカルでもメンタルでも、怪我をしたり、悩んでしまったりした時はマイナスの状態をゼロ(ここではあえてゼロとします)に戻すプロセスを踏まねばなりません。当然無理な負荷をかけてはいけませんし、現状を否定すること無く一歩一歩進むことが基本です。しかし、自身のパフォーマンスを上げてさらなる高みを目指す場合には、加圧トレーニングや、大きなプレッシャーに耐える場を敢えて経験するなどのチャレンジが必要になってきます。これを理解せずに、いつでも誰に対してでも優しさ一辺倒で接して褒め続けることしかしなかったり、逆にスパルタで常に厳しく接するのみだったりという支援、指導では、万人を成長させ続けることは不可能です。相手の立場に思いをはせ、相手の状況を察し、接し方の使い分けが出来て、初めて信頼関係の構築ができるのではないでしょうか。どんなに小さな、組織、集合体でもマネージメントらしきことをされている方には是非考えてほしい観点だと思います。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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