多事想論articles

「業務改革の成功」とは

 今回は二つの会社で取り組まれた興味深い業務改革の事例を紹介したい。ひとつは、刷新したシステムの導入が終わったタイミングで改革推進チームの規模を縮小してしまった事例である。業務改革を主管されていた部長の方に理由をうかがったところ「システム導入が完了し、今後はシステムを使うだけなので推進担当者の人数は不要である」とのことであった(以降、事例Aとする)。 もうひとつの事例は、システム構築完了を迎えるにあたって改革推進チームの体制を増強した事例である。推進チームのリーダー曰く「過去の改革活動ではシステムが導入されたが、せっかく整備したにもかかわらず使われない機能があったり、使いこなすためには社員のレベルアップが必要だと思っていたが意識が低いままだったりした。今回は失敗したくないので専任の推進組織を整備して新しい業務の進め方やシステムの使い方等を指導していく」とのことであった(以降、事例Bとする)。
 両者の対応の違いは「業務改革の成功」の認識が違うことに起因していた。事例Aの担当者は「情報システムの刷新」自体を業務改革の成功ととらえていた。その結果、業務のやり方自体は大きく変えずに、情報システムの導入による効率化を行っていた。それに対し、事例Bの担当者は「仕事のやり方や従業員の心構えそのものを変革させること」を業務改革の成功ととらえていたのである。 その結果、システム導入と同時に業務のやり方自体を見直した上で、さらに新しい業務を定着させられるように専任の推進部隊を用意して業務の教育・指導に取り組もうとしていた。

 両者の業務改革に対する捉え方はどのような違いがあるのだろうか?これに対して、あるお客様がおっしゃっていた、わかりやすい喩え話を紹介する。

 鉄砲伝来以前、ひとりひとりの武士が刀をもってそれぞれが思うがままに「われこそは」と戦をしていた。やがてそこに鉄砲が導入された。その結果、武器が刀から鉄砲に変わったのである。刀が鉄砲に変わったこと自体、大きな変化に違いない。だが、あいかわらず、「われこそは」と、各々が思うままに鉄砲を武器に戦をしていることを想像したら、どのように感じるだろうか? 鉄砲を導入したのであれば、武士が隊列を組む戦い方を編み出し、発砲するタイミングまでルール化する等の戦術を変化させて、多くの戦から勝利を奪うようにしたいと思うだろう。実際に、史実はそのようになった。

 鉄砲の例と同じように、業務改革にも「道具が変わること」と「戦い方が変わること」の二種類の変化が存在する。事例Aと事例Bの違いは、まさに「道具が変わること」と「戦い方が変わること」の違いであり、企業の永続的な競争力を確保するという視点に立つならば、後者の変化が必要であることは明白に違いない。
 あなたが取り組んでいる業務改革は「道具の変革」自体が目標になっていないだろうか。業務改革を推進しているのであれば、今一度、取り組みについて振り返って欲しい。「道具の変革」自体を目的としたアプローチになっているのであれば、会社を本質から変革し、真の競争力を確保するような成果を手に入れるのは難しいと気付くだろうから。

執筆:前田 直毅
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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