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モノづくりの競争力2 ~設計と生産の距離~

情勢が比較的安定していた昨年11月、タイ(バンコク)にて、日本の現地法人企業様向けに「グローバルものづくり成功へのKey Factor」という題目で講演した。講演内容については弊社HPに掲載している為、ご興味のある方は下記リンクから資料をダウンロード頂き、参考にして頂ければ幸いである。

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グローバルものづくり徹底改善セミナー ITID講演資料

その中では本国と現地間や現地の部門間そしてサプライヤーも含めた「連携プロセスの構築」と、設計と生産のノウハウを整理する「設計生産ノウハウの見える化」の2つを成功のKey Factorとして挙げている。

ITIDは、これまでDSM(Dependency Structure Matrix)といったプロセス分析手法や、技術ばらしといった要求と機能そして機能を実現する要素(部品寸法や制御ラベル)の関係性をツリー形式で構造化するノウハウの見える化手法を、主に製造業のお客様、その中でも特に設計・開発領域を対象にご支援させて頂いた実績が多いが、最近はその手法を生産・製造領域まで拡張させて取り組みたいというニーズが高まってきている。

その背景には、今まで日本が得意としてきたすり合わせ型のモノづくり(設計と生産の前後工程のすり合わせ)を支えてきた、現場に足を運び、現物を手に取り確認し、現実を目で見て事実を知るという3現主義の実施が、グローバル化により拠点が離れることで難しくなってきており、それを補うために言葉だけでのコミュニケーションではお互いのノウハウを伝える事が難しいからだと考えている。

セミナー後に催した懇親会の場で、あるお客様は「3.11の震災の影響で開発拠点を生産拠点(タイ)に移して開発した機種が予想以上に上手く回り、予定納期を前倒しで量産開始する事が出来た。その理由が今まで上手く説明出来なかったが今回の講演を聞いて分かった気がする」と仰っていた。

この発言からも設計と生産の距離の近さが開発効率を向上させるという事がわかる。確かに、震災に負けないという強い意志が高いモチベーションとなり開発効率を押し上げたという側面もあると思うが、設計担当者と生産担当者の間で日常的にコミュニケーションを取り、知らず知らずのうちにお互いのノウハウを伝達するという行為(従来のすり合わせ型開発)が行われていた結果であろう。

しかし、生産拠点がグローバルに広がる中で、距離が離れていても正しくコミュニケーションが取れる≒正しくノウハウを伝えるということが重要な課題となり、冒頭に述べた2つのKey Factorがその課題を解決するソリューションとなる。

特に後者の「設計生産ノウハウの見える化」はまだ国内にノウハウが残っている間に実施しておくべきである。一度ノウハウをきちんと構造化し整理しておけば、各拠点で必要なノウハウだけを共有し必要ない部分はブラックボックス化しておくというような柔軟な活用ができるので現在グローバル開発の問題としてよく耳にする不要な問い合わせや、大きな手戻りを削減する事に繋がるだろう。また最終的に国内回帰したとしてもノウハウ流出せずに残ったままなのでそうなってから慌てる必要も無い。

製造業のトレンドは、一昔前までは中国、インド、タイ、ブラジルと呼ばれていた国を生産拠点として選択していたが、最近ではベトナムやインドネシア、及びメキシコ、アルゼンチンといった新興国を次の生産拠点として選択している。

今後は急速に変わっていく市場をいち早く察知し、柔軟に拠点を移転していくことが出来るメーカーが生き残っていくのではないだろうか。

※興味を持たれた方は、初回に執筆しました「モノづくりの競争力」もご覧下さい。

執筆:木村 仁
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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