多事想論articles

機能割付け -先進企業の取組み(その1)-

(4/6)

1.A社の事例

A社は、複写機・プリンター・イメージスキャナ・ファクシミリなどの機能を1つにまとめたデジタル複合機を手がける事務機器メーカー。メカ、エレキ、ソフトの主要分野に分かれた機能別ユニットから各担当者が開発プロジェクトに参画し、1プロジェクトあたり50名ほどで製品開発を行っている。

■機能責任者の明確化

A社の機能に対するこだわりは非常に強い。顧客をあっと驚かせるような新しい機能をどうやって作るか、構想段階ではそのための手段を検討することにほとんどの時間をかける。評価検証フェーズに入る直前まで、実装した機能が性能目標を満足するレベルに達しているかを評価するための指標や手段をメカ、エレキ、ソフトの担当者全員が集まって検討することは少ない。評価検証フェーズに入って、いざスイッチを入れてみるとあるユニットが動かない、そのユニットが動いたら今度は別のユニットが動かない、といったトラブルが起きてしまう。目の前でそんなトラブルが起きても、自分が担当するユニット単体での動作検証では問題ないと主張して、なかなか自分から解決しようとしない。
そこでA社は個別の機能に対して担当者間の認識がズレないようにメカ、エレキ、ソフトに分かれて検討する前段階で各分野のリーダが集まる場となる機能割付けに着目した。
すべての機能は、メカ、エレキ、ソフト間をインターフェースを介して受け渡される。各機能に対して、メカとエレキ間、エレキとソフト間に分けてそれぞれインターフェースとなる構成要素をリストアップする。抽出した構成要素の実現のしやすさを確認しながら、機能と関係する要素を強い順に◎、○、-の3段階で評価する。こうすることで、対象となる機能を、どの分野の設計要素で実現しようとしているかがひと目でわかる。
(表1:機能割付表)

回転シャフトをホームポジションで止める

この機能割付表を見て、機能と一番関係の強い要素を担当する人が最終的な機能責任者となる。機能責任者はこの表を見ながら検討すべき課題や想定されるリスクを確認し、3者ですり合わせが必要な時期に随時関係者を招集してお互いの認識がズレないように気を配る。トラブルが発生した場合は、機能責任者が関係者と連携を取りながら責任をもって問題解決にあたる。特に、デジタル複合機のようなソフトが中心となる製品の場合は、ソフト担当者が主体となって企画検討や機能割付けを実施することが多い。

■企画とりまとめの専任化

またA社では、製品全体として関係者全員の認識がズレないようにするために、企画をとりまとめる人を必ず1名専任で置くようにしている。 開発案が生煮えの段階から、この企画のとりまとめ役のもとに各分野(メカ、エレキ、ソフト)に対して意思決定ができるマネージャが集まり、仕様や実際の構成などを摺り合わせる、いわゆるシステム設計を行うのである。 機能割付けの結果は、会議の討議内容の記録として残し、打ち合わせに参加したマネージャが情報を持ち帰り各機能単位で分かれて設計を進めている。 企画をとりまとめるには、要求仕様をどのようなアーキテクチャで実現するのかを検討することができる技術力が必要となる。 そのため、誰もができるわけではない。A社には、現在、ベテラン社員が社内教育の講師を担うような教育制度はなく、とりまとめ役の育成は、もっぱら設計のベテランのもとでのOJTに頼っている。 企画のとりまとめ役を専任化させることは、開発組織の中で専門技術として技術を蓄積できるというメリットもある。今後いかに早くとりまとめ役を育成していくことができるかがA社の課題である。

資料ダウンロードはこちら