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デザインレビュー(設計審査会) -A社の事例-

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 カーオーディオやカーナビゲーションなどの機器の開発を手掛けるA社では、現行のデザインレビューの運用を規定した設計審査規定を制定してから15年ほどが経ち、現在ではすべての製品で実施され有効に機能している。

 A社では製品開発の流れを大きく、製品企画、詳細設計、量産試作、量産の四つのフェーズに区分し、各フェーズの中で設計審査会を実施している。各フェーズの完了時には報告者がそれまでの検討結果を報告し、決裁者が次フェーズ移行の可否を判定する。これらの設計審査会は製品開発プロセスの中で最も重要な会議に位置付けられており、ここを通らなければプロセスは流れない仕組みになっている。

 それでは、なぜA社ではデザインレビューの仕組みが有効に機能し、定着しているのだろうか。取り組み内容から浮かび上がった三つのポイント、「役割分担」、「階層化」、そして「属人性の排除」について深掘りしていきたい。

役割分担

 A社の特徴の一つに、役割分担が挙げられる。一般的に、設計審査会の出席者の中で主要なのは報告者と決裁者である。多くの場合、報告者はフェーズによって異なり、設計部門や生産部門が担当する。また決裁者はフェーズに加えて開発の難易度に応じて決定される製品ランクによっても異なる。その点はA社も同様だが、特徴的なのは、この設計審査会を主催するのが常に品質管理部門であるという点だ。A社の全製品、全フェーズにおける設計審査会を品質管理部門が主催しており、会議前の準備から会議中の進行役、そして会議後の議事録作成までを担当している。

 報告者と主催者を分けることには次のような利点があると考えられる。まず、報告部門の負担を軽減できる。設計審査会の開催案内を発行し多くの部門に出席を要請することは、作業的な負荷もさることながら心理的な負担も小さくない。これらを主催者が引き受けてくれることで、報告部門は報告準備に集中しやすくなる。次に計画的な開催が担保されやすくなる。報告者が主催者を兼ねている場合、報告側の都合で開催が遅れてしまうことが少なくないが、品質管理部門が報告部門に対する第三者機関となって牽制力を持つことで計画遵守率を高めている。そして最後に情報共有による品質向上である。品質管理部門は全製品の設計審査会に出席することで指摘事項や問題点がノウハウとして蓄積され、次の製品開発で何に気をつけるべきかというチェックの視点が養われる。

階層化

 役割分担の他に、A社では設計審査会を開催するまでの段階的なレビューを定めている。詳細は割愛するが、たとえば設計部門内では図面チェックの段階や設計審査会の検討項目に基づく部門内レビューの段階がある。また、各部門内レビューの結果を品質管理部門が設計審査会の前に集めてチェックする仕組みもある。このように階層化し、段階的なチェックを行うことにより、効率的な漏れのないレビューを実現している。(図2)
 また、階層ごとに参加者や審議内容を細かく定義することで、商品化認定のような位置づけの会議にもかかわらず経営層が設計の詳細に口を出すというような事態を避けることもできる。

デザインレビューの階層化
図2 デザインレビューの階層化

属人性の排除

 品質管理部門がチェックする対象には、メカ・エレキ・ソフトといった各専門分野からのドキュメント類が含まれる。 専門知識の有無によらずに品質管理部門でもこれらの中身に対して意見が言えるようにするため、事例学習などを通じた人材育成を行っている。 チェックリストの項目にも、それを読んだだけでは意味を理解できないものがあるため、品質管理部門の中でも担当者、リーダ、管理職、と複数の職制がチェックするようにしている。

 また、専門知識の有無だけでなく、忙しかった、あるいは忘れてしまったという理由でのチェック漏れも生じやすい。これを回避するために、先にあげた階層的なレビューとは別に、アウトプットの受け渡し時のチェックといった手順レベルのプロセスを作っている。これにより、チェックのポカミスを防ぐよう努めている。

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