デザインレビュー(設計審査会) -B社の事例-
オフィス事務機を開発しているB社では、多くの企業と同様に開発標準プロセスの中でデザインレビューに関するルールが規定されている。この規定の中ではメカ、エレキ、ソフトなどの要素ごとにデザインレビューの実施内容や時期について定義されている。A社と同様にB社のデザインレビューの仕組みも有効に働いているが、ここでは「専門家」、「レビュアーの責任」、そして「厳格性」をポイントに挙げることにする。
専門家
デザインレビューで一番重要なのは、的確な指摘や判断によって問題を後工程に流出させないことであるが、そのためには当然それ相応の知識や経験を持ったベテランがレビュアーとなる必要がある。ところが、最近の製品の複雑性や規模の拡大により、レビュー対象分野に精通していない人がレビュアーとならざるを得ないという状況になっている企業も少なくない。 ISOで規定されているからという理由でデザインレビューを形式的に実施している企業で起きやすい現象である。B社では、意味のないデザインレビューを避けるために専門家の参加を必須としており、専門家が参加していないデザインレビューは無効となって再開催を余儀なくされる。専門家は分野ごとに登録されており、デザインレビューの主催者は内容に合わせて専門家に参加要請を出す仕組みになっている。これによりデザインレビューの質を維持、向上させている。
レビュアーの責任
デザインレビューにおいてレビューされる側が嫌うのは、レビュアーの「思いつき」による指摘だ。レビュアーが対象製品のこれまでの開発経緯をよく知らないまま「粗探し」をする。参加者としての義務感もあるのだろうが、一方でその場限りの無責任な発言になっている可能性もある。レビュアーが思いつきで指摘したとしても、指摘された側は何らかの対応をせざるを得なくなり、予定外の資料作成など余計な時間を費やすことになってしまう。
B社では、このような「思いつき」による指摘をなくすためにルールを制定した。それは「レビュアーが問題を指摘した場合は、その問題が解決されるまでレビュアーが責任を持つ」というものだ。解決されなければ設計者ではなくレビュアーの責任になる。こうすることで本当に必要な問題だけが指摘されるようになり、デザインレビューの時間を有効に使うことができるようになった。結果的に設計品質の向上にもつながっている。
このようなルールにすると余計な仕事が増えるのを嫌ってレビュアーの指摘が減るのではないかとの不安も出てきそうだが、B社のように良い製品を世に送り出す責任感が強い集団にとっては無用の心配のようである。
厳格性
多くの企業でデザインレビューの形骸化が問題視される中、B社ではデザインレビューが厳格に運用されている。一定の条件、いわゆる「移行基準」をクリアしていなければ、いかなる理由があろうともデザインレビューを通過することはできず、再度デザインレビューに臨まなければならない。 デザインレビューが不通過になることで発売日に影響が出る可能性はあるが、問題を先送りすることの方がリスクは高いという考え方だ。
ここでポイントになるのは、デザインレビューを通過する条件とは何かということになる。移行基準が明確でなければ判断も難しくなってしまう。仮に移行基準が「詳細設計に移行できるレベルになっていること」のという定義だとすると判断する人によって結論は変わってくるだろうし、そもそもこの程度の定義であれば不通過にすることはなかなかできないのではないだろうか。その点B社では、この移行基準を定量的に定義することで誰もが客観的に判断できるようにしている。たとえばある機能については、「毎分XX回の動作ができること」というような製品仕様の目標値を通過の条件として定義することで、デザインレビューの際にはその値を達成しているかどうかで次フェーズへの移行可否を判断するわけだ。ただし、一般的に見た目や触感などいわゆる「知覚品質」に対して定量的な移行基準を定義するのは難しいが、定量化に挑戦している企業も少なくない。
移行基準は機種ごとに定義するだけではなく、機能や要素ごとに、さらには開発フェーズに応じて段階的に定義にしなければならない。「毎分XX回の動作ができること」が最終的な条件だとすれば、開発の初期段階のデザインレビュー時点では、「目標の70%を達成していること」としておくという具合だ。B社ではこのような移行基準を品質計画として製品開発をスタートする時点で作成することを義務付けている。
デザインレビューの仕組みを厳格に運用することでデザインレビューを通過できないケースが増え、開発遅延になる恐れがあると考える向きもあるが、B社の場合は逆である。デザインレビューの移行基準を定量的に定義することで適切な判断が可能となると同時に、設計者がやらなければならないことも明確になる。移行基準を達成しなければデザインレビューは不通過になることは明白なので、「確実に通過させなければならない」という意識が高まり、結果的に計画通りに開発を完了することができている。
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